≪貸倒引当金の会計処理 と 税務≫

1.引当金の規定

(1)会社法・企業会計原則の規定

会社法431条で「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」との規定があり、この企業会計の慣行とは一般的に「企業会計原則」を指すものとされています。

また、計算規則(第6条2項一)において、「次にあげるもののほか将来の費用又は損失(収益の控除を含む)の発生に備えて、その合理的な見積額のうち当該事業年度の負担に属する金額を費用又は損失として繰り入れられることにより計上すべき引当金(株主に対して役務を提供する場合おいて計上すべき引当金を含む。)と規定しています。

企業会計原則(注18)では、「将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。」となっています。

(2)引当金の分類(一般的なもの)

【負債性引当金】・・・・ 製品保証引当金、売上割戻引当金、返品調整引当金、

(負債に計上) (役員)賞与引当金、工事保証引当金、退職給付引当金、

修繕(特別)引当金、債務保証損失引当金、

損害損失補償引当金、役員退職慰労引当金、

ポイントサービス引当金など

【評価性引当金】・・・・ 貸倒引当金、投資損失引当金など

(資産を控除)

 

2.企業会計上の貸倒引当金

商取引上生じた売掛金、貸付金などは回収できない場合があり、現実に回収が不能となったときは貸倒損失として損金処理できます。しかし企業会計上、現実に回収不能と確定してなくても、将来発生が予測される回収不能の準備として一定の計算に基づいて引当金を計上することが求められています。

会社計算規則(第5条4)において、「取立不能のおそれのある債権については、事業年度の末日においてその時に取り立てることができないと見込まれる額を控除しなければならない。」と規定しています。

具体的な計算根拠は「金融商品に関する会計基準」の「Ⅴ 貸倒見積高の算定」によることになります。

(1)一般債権(経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権)

→ 債権全体又は同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績等合理的な基準により貸倒見積高を算定する。

(2)貸倒懸念債権(経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性が高い債務者に対する債権)

→ 債権の状況に応じて、次のいずれかの方法により貸倒見積高を算定する。ただし、同一の債権については、債務者の財政状態及び経営成績の状況等が変化しない限り、同一の方法を継続して適用する。

① 債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積額を算定する方法。

② 債権の元本の回収及び利息の受取に係るキャッシュ・フローを合理的に見積もることができる債権については、債権の元本及び利息について元本の回収及び利息の受取りが見込まれるときから当期末までの期間にわたり当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積額とする方法。

(3)破産更正債権等(経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権)

→ 債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とする。

 

3.中小企業の貸倒引当金

   中小企業においても貸倒引当金の考え方は上記企業会計の考え方と特に大きな違いがあるわけではありません。中小企業会計基準においても債権を企業会計と同じく3つに分類し回収不能の見込み額について計上することを求めています。

【中小企業会計に関する指針】

 貸倒引当金は、以下のように扱う。(1) 金銭債権について、取立不能のおそれがある場合には、取立不能見込額を貸倒引当金として計上しなければならない。

(2) 取立不能見込額については、債権の区分に応じて算定する。財政状態に重大な問題が生じている債務者に対する金銭債権については、個別の債権ごとに評価する。

(3) 財政状態に重大な問題が生じていない債務者に対する金銭債権に対する取立不能見込額は、それらの債権を一括して又は債権の種類ごとに、過去の貸倒実績率等合理的な基準により算定する。

(4) 法人税法における貸倒引当金の繰入限度額相当額が取立不能見込額を明らかに下回っている場合を除き、その繰入限度額相当額を貸倒引当金に計上すること

ができる。

 

4.税務上の貸倒引当金

税法は、売掛金、貸付金その他これらに準じる債権の貸倒れによる損失の見込額として、損金経理により貸倒引当金に繰り入れた金額については、一定の限度額に達するまでの金額を損金の額に算入することを認めています。(法人税法52条)

貸倒引当金の繰入額は期末の金銭債権額を個別に評価する債権(個別評価金銭債権)とその他の債権を一括して評価する(一括評価金銭債権)に区別して計算します。

ただし、平成23年12月の税制改正において貸倒引当金の適用対象法人が限定されています。

【適用対象法人】

①資本金1億円以下の中小法人等(ただし、大法人との間に当該大法人による完全支配関係がある法人は除く)

②銀行、保険会社、これらに準ずる法人

③売買があったものとみなされるリース資産の対価の額にかかる金融再検討を有する法人

1)個別評価金銭債権

4つの類型に区分され、それぞれについて損失の見込額の計算方法が定められています。

① 長期棚上げ債権

会社更生法の更正計画認可決定その他一定の事由の決定後、特定の事由が生じたことにより、それぞれの弁済を猶予又は不払いにより弁済されることとなった金銭債権

回収不能見込額=A―B―C

(A)対象金銭債権

(B)特定の事由が生じた事業年度終了の日の翌日から5年を経過する日までの弁済予定額

(C)担保権の実行(基本通達11-2-5参照)その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額

(なお、人的保証がある場合は別途、基本通達11-2―7参照)

② 債務超過等の事由により回収見込がない債権

債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その営む事業に好転の見通しがないこと、災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたことその他の事由が生じていることにより、その一部の金額につき取立等の見込みがないと認められる金銭債権(①に該当するものを除く)。

回収不能見込額=A―C

(A)対象金銭債権

(C)担保権の実行(基本通達11-2-5参照)その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額

  (注)債務超過の状態が相当期間継続とは、おおむね1年以上で、債務超過に至った事情と事業好転の見通しをみて、事由が生じているかを判定する。(基本通達11-2-6)

③ 形式基準によるもの

個別評価金銭債権の債務者について、会社更生法の更正手続き開始の申し立て等

の一定の事実が生じている場合(①②該当除く)。

回収不能見込額=(A―実質的に債権と見られない金額―C)×50

            (基本通達11-2-9)

(A)対象金銭債権

(C)担保権の実行(基本通達11-2-5参照)その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額

  (注)一定の事由

イ.会社更生法又は金融機関等の更正手続きの特例等に関する法律の規定による更正開始手続き開始の申し立て

ロ.民事再生法の規定による再生手続き開始の申し立て

ハ.破産法の規定による破産手続き開始の申し立て

ニ.会社法の規定による特別清算開始のも申し立て

ホ.手形交換所および電子債権記録機関による取引停止処分(事業年度終了後でも申告書の提出期限までに生じた場合も含む)。

④ 外国政府、中央銀行又は地方公共団体に対するものも③に順ずる。

 

(2)一括評価金銭債権

売掛金、貸付金その他これらに準ずる債権は、期末の一括評価金銭債権の帳簿価額に過去の3年間の貸倒実績率を乗じて計算します。

繰入限度額=期末の一括評価金銭債権の帳簿価額の合計×貸倒実績率

(実績率~小数点以下4位未満切上げ)

【留意】

① 個別評価金銭権がある場合にはその債務者に対する金銭債権の全額を除外する。(債権の種類で個別、一括の選択は出来ない)

② 一般的な債権で設定の対象とならないもの

・預貯金の未収利息、公社債の未収利息、未収配当

・保証金、敷金、預け金等

(返還請求権となった場合は個別評価の対象となる)

・手付金、前渡金

・前払給料・前払旅費などの仮払金、立替金

・雇用保険、障害者交付金など

・仕入れ割戻しの未収金

③ 預託金方式のゴルフ会員権は、退会しプレー権を返上した場合は、預託金の返還請求権として貸倒引当金の対象とすることが出来る。

④ 実質的に債権とみられないものの除外はしないで、グロスの債権額で計算する。

⑤ 法定繰入率<中小法人の特例)の場合は、実質的に債権と見られないものを除外したネットの債権額とする。

⑥ 繰入限度額の計算

その事業年度開始の日3年以内に開始した各事業年度の売掛債権等の貸倒損失の額×貸倒実績率=繰入限度額

<貸倒実績率>

(その事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度の売掛債権等の貸倒損失の額+個別評価分の引当金繰入額―個別評価分の引当金戻入額)×12/左の各事業年度の合計月数
 その事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度の終了の時における一括評価債権の帳簿価額の合計額÷左の各事業年度の数

 

⑦ 中小法人等の特例

中小企業等には貸倒実績率による計算のほかに下記の法定繰入率による貸倒引当金の計上も認められている。

(ア)卸売及び小売業~1%

(イ)製造業    ~0.8%

(ウ)金融及び保険業~0.3%

(エ)割賦販売小売業~1.3%

(オ)その他    ~0.6%

 

※中小法人等

以下の要件を満たす法人をいう。

①資本金又は出資金の額が1億円以下の法人

②次に掲げる法人との間にその法人による完全支配関係がないこと

(ア)資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人

(イ)相互会社

(ウ)受託法人

③保険業法に規定する相互会社等ではないこと

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